正常営業循環基準とネット検索すると、会計ソフトを販売している会社や税理士事務所などが公開しているアンテナサイトが大量にヒットします。常々感じますが、そういったサイトに書いてある内容っていい加減すぎますよね。客集めのために市販の書籍なんかを参考に作成しているだけだからかなと思いますが。
正常営業循環基準の講学上の定義
正常営業循環基準に関する講学上の定義は次のようなものです。
流動資産と固定資産の区分に際しては正常営業循環基準とワンイヤールールがある。
正常営業循環基準により企業の正常な営業循環過程にある資産は短期的に現金化を予定していないものであっても流動資産に区分する。次に正常営業循環基準が適用されないものに関してはワンイヤールールにより決算日から1年以内に現金化されることを予定しているものは流動資産に区分する。
ちなみにここまでの内容は正しいです。会計学のテストで正常営業循環基準について答えてくださいと問われてこう答えられれば正答になります。
しかし、↓の内容は間違ってます。
売掛金、受取手形、前払金、棚卸資産などに正常営業循環基準が適用されて流動資産となります。
棚卸資産には正常営業循環基準の適用はないです。
このような間違った内容が書いてあるサイトが多々ありびっくりします、、、
Normal business cycle standard
ちなみに正常営業循環基準とは、我が国において企業会計原則を根拠に誕生した会計用語です。正常営業循環基準についてわざわざ「Normal business cycle standard」などと併記しているサイトがいくつもありますが、このような英語の会計用語が存在しているわけではなく、正常 Normal 営業 business 循環 cycle 基準 standard というように英語に直訳しただけの単なる造語です。
正常営業循環基準とは
正常営業循環基準とは貸借対照表原則とそれを受けた企業会計原則の注解・注16が直接の根拠規定であり、そこには次のように書かれています。
[注16] 流動資産又は流動負債と固定資産又は固定負債とを区別する基準について
受取手形、売掛金、前払金、支払手形、買掛金、前受金等の当該企業の主目的たる営業取引により発生した債権及び債務は、流動資産又は流動負債に属するものとする。ただし、これらの債権のうち、破産債権、更正債権及びこれに準ずる債権で一年以内に回収されないことが明らかなものは、固定資産たる投資その他の資産に属するものとする。
すなわち、正常営業循環基準とは、
- 受取手形、売掛金、前払金、支払手形、買掛金、前受金等の
- 当該企業の主目的たる営業取引により発生した債権及び債務については
- 流動資産又は流動負債に属するものとする
という内容になります。
棚卸資産については正常営業循環基準の適用がない
ちなみに棚卸資産については次のように書かれています。
[注16] 流動資産又は流動負債と固定資産又は固定負債とを区別する基準について
商品、製品、半製品、原材料、仕掛品等のたな卸資産は、流動資産に属するものとし、企業がその営業目的を達成するために所有し、かつ、その加工若しくは売却を予
定しない財貨は、固定資産に属するものとする。 なお、固定資産のうち残存耐用年数が一年以下となったものも流動資産とせず固定資産に含ませ、たな卸資産のうち恒常在庫品として保有するもの若しくは余剰品として長期間にわたって所有するものも固定資産とせず流動資産に含ませるものとする。
- 商品、製品、半製品、原材料、仕掛品等のたな卸資産は、流動資産に属するものとする
- たな卸資産のうち恒常在庫品として保有するもの若しくは余剰品として長期間にわたって所有するものも固定資産とせず流動資産に含ませるものとする
このように棚卸資産については正常営業循環基準の適用はないです。
有価証券は所有目的により分類
また、これも誤解されがちですが、有価証券に関してはワンイヤールールではなく所有目的により流動資産か固定資産かを分類します。
営業上の債権について正常営業循環基準を適用
結局、資産のうち、正常営業循環基準により流動資産か固定資産かの分類を行うものは売掛金、受取手形、前受収益などの営業上の債権のみです。
流動固定の区分一覧
流動資産と固定資産の区分、流動負債と固定負債の区分に関しては正常営業循環基準を適用するのか、ワンイヤールールを適用するのか、それともどちらの適用のないものなど結構色々あってやや複雑です。そこで結果論的に流動固定の区分に関する結論を整理した一覧表をエクセルテンプレートとして配布することにしました。