キャッシュフロー計算書

キャッシュフロー経営についてよくある勘違いを解説(図解豊富)

2023年8月10日

キャッシュフロー経営について

株式会社などの営利法人は通常、株主からの出資や銀行借入などにより調達した資本を事業活動に投資することで売上を稼いで利益を獲得することを事業活動の究極的な目的としています。

そして事業活動には運転資本が必ず必要です。さらに会社の短期的な決済のためには常に一定額の手元現金を確保する必要もあります。これら運転資本手元現金は事業活動に必須でありながら資本効率を考えると過大な場合は無駄であるため適正な水準で管理する必要があります。

キャッシュフロー経営とは、損益計算書の当期純利益を重視するのは当たり前のこととして手元現金の残高をしっかりと把握し、資金の流れを認識することをいいます。黒字倒産事例の多発の反省などから重視されるようになりました。

キャッシュフロー経営に関する間違った理解

キャッシュフロー経営とは、これまで軽視されがちだった運転資本手元現金を適切に管理することであり、ビジネスにおいて最も重要なことは利益最大化であることは言うまでもないです。

しかしながら日本においてはキャッシュフロー経営について間違った情報が蔓延しているためキャッシュフロー経営についての正しい内容が浸透していないと感じます。

利益よりキャッシュを重視することではない

注意ポイント

「キャッシュフロー経営」と日本語でネット検索して上位にヒットしたページを少し読んでみると杓子定規のようにキャッシュフロー経営とは「利益ではなくキャッシュを重視することである」「手元現金を増やすことである」などと意味不明なことが書かれているサイトばかりです。

株式会社は利益を稼ぐことを目的として設立された営利法人です。出資者である株主に利益を分配するためには利益を稼ぐ必要がありますし、役員や従業員に給料を支払うなどして事業を持続していくためにも利益を稼ぐ必要があります。配当や給料は手元現金から支払うのではないんですよ?

手元現金を増やすことではない

手元現金を増やすとは、営業活動から稼いだキャッシュフロー再投資するでもなく、財務活動のために支出するでもなく、現金や預金勘定として貸借対照表の現金及び預金の残高を増やすことです。そして手元現金には適正水準というものがあります。

手元現金の適正水準を管理するのが手元流動性です。

財務分析Financial analysis
現預金月商比率:現預金/平均月商

現預金月商比率とは 現預金月商比率とは、会社が月商の何ヶ月分の現預金を保有しているかを示す指標です。現預金月商比率の基本算式は次のとおりです。 手元流動性比率とは違う 現預金月商比率は手元流動性比率と ...

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必要以上に手元現金を増やす必要など全くないですしむしろそれは資本効率を低下させる行為です。つまり本来のキャッシュフロー経営の意味からは真逆です。

セコイ商売をすることではない

次に、運転資本とは、ざっくり言って売上債権プラス棚卸資産マイナス仕入債務です。運転資本は少なければ少ないほど資本効率が高いことを意味します。

そして、売掛金の回収期間を短くすればするほど、あるいは支払債務の決済期間を後伸ばしにすればするほど運転資本は減少します。これはキャッシュフロー的に考えてメリットしかありません。

ポイント

したがって、売上債権の回収期間を少しでも短縮したり、仕入債務の決済期間を少しでも後伸ばしにすることがキャッシュフロー経営であると勘違いしている方がかなり多いですが(そのように書いてある書籍やウェブサイトが多いため仕方ないと思いますが)、こういった行為は取引先や仕入先にキ資金繰り負担を押し付けているだけであってキャッシュフロー経営ではないです。

究極的な理想は無在庫経営

個人的にキャッシュフロー経営の究極的な理想無在庫経営、もしくはトヨタのジャストインタイム方式だと思っています。

しかし普通の会社がいきなり無在庫経営に転換したり、トヨタのジャストインタイム方式を導入するなんて不可能です。

在庫管理の徹底化

それでも普通の会社でもできることがあります。それが在庫管理を徹底化してできるだけ在庫を圧縮する、過剰在庫しないなどでしょうか。それだけでもかなり違いが出るはずです。

例えばコンビニ事業が躍進してる理由はPOSシステム導入による在庫管理の徹底化です。いまや大手スーパーでも当然のこととしてPOSシステムは導入されています。

しかし、一般の企業でPOSシステムのようなシステムを導入して在庫管理している会社は皆無ですよね?上場企業ですらこの高度情報化社会においてかなり時代遅れなことをやってる会社は多いです。

棚卸資産回転期間

例えば、棚卸資産回転期間という財務分析指標があります。

さすがに在庫管理のためにPOSシステムのような在庫管理システムを導入するなんてことはできなくても、棚卸資産回転期間のような財務分析指標を活用して同業他社などと比較して自社の状況を分析するであればたいしてお金もかからない上にかなり有効です。

在庫管理を徹底して例えば在庫回転期間を4か月から3か月に短縮できたとしたら、その分運転資本の圧縮になります。

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棚卸資産回転期間 棚卸資産回転期間とは、棚卸資産が仕入れからどのくらいの期間で販売できているかをみる指標です。棚卸資産回転期間の算式は次のとおりです。分母に売上高を使う方法など算式にはバリエーションが ...

キャッシュフロー経営によりROAが改善

キャッシュフロー経営で在庫が圧縮されると、貸借対照表の面ではその分だけ総資産がスリム化します。総資産がスリム化するということは、ROAが改善します。

つまり、キャッシュフロー経営にはROAを改善する効果があります。

キャッシュフロー経営とROA

なお、ROAを重視してROAの最大化を目指すことがキャッシュフロー経営だ、などというもっともらしいことが書かれていたサイトもありましたがさすがにそれはキャッシュフロー経営ではなくROA重視経営ではないでしょうか。

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