キャッシュフロー計算書について前置き
株式会社などの事業会社の目的は利益を稼ぐことですが、事業活動には様々な経費の発生を伴います。そしてその必要経費は現預金(キャッシュ)の流出として会社の預金口座から出ていきます。
したがって、会社は利益を稼ぐことのみならず、事業を維持していくためには、経費を賄うための現預金(キャッシュ)を稼ぐ必要があります。
キャッシュフロー計算書の営業活動によるキャッシュフローにはその経費を賄うために必要な現預金(キャッシュ)をその会社が本業の営業活動からどの程度稼いだのかが現れます。
また、設備投資を行う場合など、あらかじめ手元資金が不足することが見込まれる場合には会社は銀行融資などにより現預金(キャッシュ)の調達を行いますが、これはキャッシュフロー計算書の財務活動によるキャッシュフローの区分に現れます。
そして会社が設備投資などの投資を行った場合にはキャッシュフロー計算書の投資活動によるキャッシュフローの区分に現れます。
このように、キャッシュフロー計算書を見ると会社が現預金(キャッシュ)をどのように稼いだり調達したり運用しているのかを詳しく知ることができます。
営業活動によるキャッシュフローの具体例
キャッシュフロー計算書には下の図解のように営業活動・投資活動・財務活動の三つの区分があり、それぞれの区分ごとで資金の純増加・純減少額を集計します。そのうち営業活動の区分で集計されたのが営業活動によるキャッシュフロー、略して営業キャッシュフローです。
営業活動によるキャッシュフローの意味
営業活動によるキャッシュフローはその会社が本業の営業活動からどれだけのキャッシュフローを稼いだのかを示します。したがって営業活動によるキャッシュフローが10億円であれば、その会社は本業の営業活動から10億円のキャッシュフローを稼いだことを意味します。営業活動によるキャッシュフローは金額が大きければ大きいほどプラスの評価となります。
営業活動によるキャッシュフローの構成
営業活動によるキャッシュフローは、具体的には次のようなもので構成されています。
- 商品の販売代金の回収(プラス要因)
- 減価償却費(プラス要因)
- 商品の仕入代金の支払い(マイナス要因)
- 従業員に対する給料の支払い(マイナス要因)
- 事務所家賃、水道光熱費の支払い(マイナス要因)
法人税等の支払や、保険金収入、そして損害賠償金の支払いといった投資活動や財務活動には該当しないその他の取引によるキャッシュフローも含まれます。
営業キャッシュフローを使用した財務分析指標
営業キャッシュフローは損益計算書の利益とは異なり、資金的な裏付けのある利益といえます。したがって、一般的な財務分析指標の一部分を営業キャシュフローに置き換えてアレンジすることでより現実味のある財務分析を行うことが可能となります。
キャッシュフローマージン
その代表的なものが「キャッシュフローマージン」です。キャッシュフローマージンとは、営業キャッシュフローを売上高で除したもので、本業の営業活動の規模を表す売上高からどの程度営業キャッシュフローを稼いでいるのかを分析することができます。
-
キャッシュフローマージン(Operating Cash Flow Margin):営業CF/売上高
キャッシュフローマージンとは キャッシュフローマージンとは、売上高に対する営業キャッシュフローの割合を言います。 キャッシュフローマージンはOperating Cash Flow Marginと英語表 ...
損益計算書の利益を使った営業利益率や売上高利益率の場合には、会計処理の方法等により利益の数字が大きく変わることがありますが、キャッシュフローマージンの場合には会計処理方法に関係なく収益性を比較、測定することが可能です
キャッシュフロー比率(Operating Cash Flow Ratio)
-
キャッシュフロー比率(Operating Cash Flow Ratio):営業CF/流動負債
キャッシュフロー比率とは キャッシュフロー比率とは、営業活動から生み出されるキャッシュフローが流動負債をどれだけカバーしているかを示す指標です。営業キャッシュフロー比率とも呼ばれます。算式は次の通りで ...
営業キャッシュフロー当期純利益率
その他に、当期純利益を営業キャッシュフローで除した「営業キャッシュフロー当期純利益率」は当期純利益と営業キャッシュフローの関係を示し、比率が低ければ低いほど当期純利益に占める営業キャッシュフローの割合が多いことになりより望ましい状況であることを意味します。
債務償還年数
債務償還年数とは、有利子負債を営業キャッシュフローで除したもので、有利子負債を営業キャッシュフローで返済するとした場合に何年間で返済できるかを示します。
債務償還年数が短かければ短いほど、その会社が倒産する危険性は少なく、安全性が高いと判断することができます。
営業利益との比較
営業活動によるキャッシュフローを評価する場合にはしばしば損益計算書の営業利益と比較を行います。どちらも営業活動を起因として発生したという共通点があり相関性が高いためです。
営業キャッシュフローが営業利益よりも多い場合
営業活動によるキャッシュフローがプラスである場合は、その会社は本業の営業活動から資金を獲得できているため本業の営業活動が順調であることを意味します。
なおかつ、その上で営業活動によるキャッシュフローが損益計算書の営業利益を超えている場合にはキャッシュの増加という資金的裏づけのある利益が損益計算書に計上されていることを意味します。素晴らしいと判断できます。
営業キャッシュフローが営業利益未満である場合
営業活動によるキャッシュフローがプラスである場合はその会社が本業の営業活動から資金を獲得できており本業の営業活動が順調であることを意味しますが、営業活動によるキャッシュフローが損益計算書の営業利益に満たない場合には、利益がキャッシュの増加に裏付けられていないことを意味します。利益の質が低いことから要注意と判断できます。
営業キャッシュフローがマイナス
営業活動によるキャッシュフローがマイナスになっている場合には、営業利益との比較を行うまでもなく、非常に良くない状況である場合が多いです。後述するようにその会社が成長過程にあり運転資本がどんどんマイナスになっているだけであれば問題ないですが、その会社が本業の営業活動により資金を獲得することができず、事業活動を行えば行うほどどんどん資金が流出してしまっていることのであればかなり問題です。
この場合は人間で例えるならば体のどこかに大きな傷があって血液がどんどん流出してしまっている状態です。人間が出血を放置していたらやがて出血多量で死んでしまうのと同じように会社の場合も営業活動によるキャッシュフローがマイナスの場合には最終的に死亡(倒産)してしまいます。
有利子負債が増加する
営業活動によるキャッシュフローがマイナスになっているということは、本業の事業活動を継続していくために銀行から借入れを行ったり手持ち資金を減らしつつなんとか資金繰りをやりくりしている状態に過ぎません。このような状況がしばらく続くようですと有利子負債が年々増加するばかりで、将来に対して投資を行なう余裕もなく、結果的に将来的に業績が好転する見込みも少なくなりと、どんどん悪循環に陥ってしまいます。
最悪の場合には会社の清算なども視野に
営業活動によるキャッシュフローのマイナスが単なる一時的なものであれば、前述のとおり手持ち資金を使ったり、銀行融資で資金を補う等の資金繰りによりその場しのぎはできます。しかし将来的にずっとこういった傾向が続く見込みで、業績が回復する見通しが全く立たない場合には会社の清算といったことも検討にいれたほうがよいかもしれません。
成長過程の会社は営業キャッシュフローマイナスになる
なお、営業活動によるキャッシュフローがマイナスであっても、その会社が成長過程にある場合には特に問題ありません。
どんどん売上高が増加している成長局面にある場合には、売上高の増加に比例して売掛金が急増し、さらに受注に対応するための在庫も急増します。したがって一時的に資金繰りが悪化するのは当たり前のことだからです。こういった将来的に売上高の急増が見込まれる場合にはあらかじめ運転資本として銀行より資金を調達しておくのが財務的に正しい対応となります。