財務会計

発生主義と現金主義の違いとは?具体例・メリットと会計処理の比較

2023年8月13日

会社の利益を計算するとき、収益や費用を「いつの時点で計上するか」については、発生主義と現金主義という2つの基本的な考え方があります。現在の日本の企業会計原則や税法では「発生主義」が基本原則となっていますが、両者の違いやメリット・デメリットを正しく理解することは、損益計算書と資金繰り(キャッシュフロー)のズレを把握するために極めて重要です。

この記事のポイント

  • 発生主義は経済的な事実・原因が発生した時点で計上、現金主義は現金の入出金があった時点で計上する
  • 現在の制度会計(企業会計原則・会社法・税法)は発生主義会計が原則採用されている
  • 発生主義により期間ごとの経営成績を適正に測定できるが、利益と手元キャッシュにタイムラグが生じ「黒字倒産」のリスクがある
  • 個人事業主の小規模事業者等には、特例として簡易な「現金主義」による所得計算も認められている

発生主義と現金主義の決定的な違い(比較早見表)

発生主義会計と現金主義会計の最大の違いは、「現金の動きにとらわれず、経済活動の事実に着目するかどうか」にあります。

比較項目 発生主義会計(現在の原則) 現金主義会計(家計簿・特例)
計上のタイミング 取引や原因・事実が発生した時点(現金の受払いは問わない) 実際にお金の受渡し(入金・出金)があった時点
売掛金・買掛金 掛け売り時に売上・売掛金を計上、掛け買い時に費用・買掛金を計上 掛け取引の時点では何も計上せず、入金時・支払時に初めて計上
固定資産と減価償却 購入時は資産に計上し、耐用年数にわたり減価償却費として期間配分 お金を払った年に全額が費用になり、翌年以降は費用が出ない
期間損益の正確性 非常に高い(当期の活動成果と努力が正しく対応する) 低い(支払いや入金のタイミングで利益が大きく歪む)
適用される対象 すべての上場企業・中小法人、青色申告の複式簿記 お小遣い帳・家計簿、一定要件を満たす小規模な個人事業者(特例)

発生主義会計の特徴とメリット・デメリット

現代の企業は、仕入代金を翌月末に支払ったり、売上代金を2か月後に回収したりといった「掛け取引(信用取引)」が主流です。また、工場や店舗などの高額な設備投資も行います。

発生主義のメリット:真の経営成績がわかる

発生主義の最大の強みは、「その期間の業績(稼ぐ力)を正確に表せる」という点にあります。

  • 当月に販売した商品の売上と、その商品にかかった売上原価が同じ期に対応して計上される(費用収益対応の原則)
  • 何年も使う機械設備を、使う期間にわたって公平に費用化できる(減価償却)
  • 期末に未払いの給与や家賃を当期の費用として漏れなく反映できる(未払費用・未収収益)

発生主義のデメリット:利益と現金がズレる(黒字倒産のリスク)

一方で、発生主義には「帳簿上の利益と手元の現金残高が一致しない」という弱点があります。

たとえば、1,000万円の商品を掛けで販売した場合、入金が3か月後であっても当月に1,000万円の売上・利益が計上されます。しかし、その間に仕入先への支払いや人件費の支払いが先行すると、「帳簿上は大黒字なのに、手元の現金が底をついて倒産する(黒字倒産)」という事態が起こり得ます。

このため、現代の企業分析では、発生主義に基づく損益計算書(P/L)だけでなく、現金の出入りを把握するキャッシュフロー計算書(C/F)をセットで分析することが不可欠とされています。

現金主義会計の特徴とメリット・デメリット

現金主義会計は、お金が入ってきたときに売上、お金が出ていったときに費用とする極めてシンプルな記帳方法です。

現金主義のメリット:客観的で資金ショートを起こしにくい

「現金の出入り」という動かぬ事実のみに基づいて記帳するため、誰が計算しても同じ結果になり、架空売上などの粉飾が入り込む余地がほとんどありません。また、手元にお金がある範囲でしか取引を認識しないため、資金管理としては直感的でわかりやすいのが特徴です。

現金主義のデメリット:業績の比較・分析ができない

現金主義では、年末にたまたま取引先からの入金が1日遅れて年明けになっただけで、当期の売上がゼロになり、翌期に2年分の売上が計上されるといった歪みが生じます。これでは「会社が今年どれだけ成長したのか」を正しく比較・評価することができません。

具体例で見る「計上タイミング」の違い

具体的な取引をもとに、発生主義と現金主義でどのように帳簿への反映が変わるかを比較してみましょう。

【具体例】12月に50万円の商品を納品し、代金は翌年1月末に入金された場合

  • 発生主義:商品を納品して請求権が確定した「12月」の売上として計上(借方:売掛金 50万円 / 貸方:売上 50万円)。12月決算の場合、当期の業績に正しく反映される。
  • 現金主義:12月時点では仕訳なし。実際にお金が銀行口座に振り込まれた「翌年1月」に初めて売上として計上。12月決算の場合、当期の売上はゼロになってしまう。

このように、発生主義を採用することで、営業活動の成果が正しく達成された期に利益を認識できるのです。

会計基準における「実現主義」との関係

企業会計原則では、費用については「発生主義の原則」を適用し、収益については慎重を期すために「実現主義の原則(現在は収益認識会計基準)」を採用しています。

これは、収益まで単なる「発生」で計上してしまうと、「契約書を取り交わしただけで商品も納品していないのに売上を立てる」といった危険な利益の水増しが起こるためです。確実に対価を得られる状態(商品引渡し・役務提供完了)になって初めて収益を計上するという安全装置が組み込まれています。

さらに詳しい会計基準の条文と解説

企業会計原則における「発生主義」「実現主義」「費用収益対応」の法的根拠や詳細な条文解説は、姉妹サイト『会計学を学ぼう!』の 発生主義の原則(企業会計原則の解説) や 企業会計原則 全文条文集 にてご確認いただけます。

発生主義と現金主義に関するよくある質問

Q. 個人事業主はどちらを採用すべきですか?

青色申告で最大65万円の青色申告特別控除を受けるためには、「複式簿記による発生主義」での記帳が義務付けられています。前々年の事業所得等の合計が300万円以下の小規模事業者には、事前に届出を提出することで「現金主義の特例」も認められていますが、控除額は10万円にとどまります。節税メリットと事業管理の観点からは、発生主義での記帳をおすすめします。

Q. 発生主義を採用している会社で資金繰りを管理する方法は?

損益計算書(発生主義)だけでなく、現金の出入りを把握できる「資金繰り表」や「キャッシュフロー計算書(C/F)」を必ず併用して管理します。特に売掛金の回収サイトや仕入債務の支払サイト、手元流動性比率を日常的にモニタリングすることが大切です。

Q. 費用収益対応の原則とは何ですか?

当期の収益を獲得するために犠牲となった費用だけを、同じ期の損益計算書に対応させて計上するという会計原則です。発生主義会計の中核をなすルールで、売上原価の算定や前払費用・減価償却の基礎となっています。

中の人

勤務税理士。税法はもとより資金繰り、財務関係も詳しいです。休日に植物いじるのが趣味。あと猫好き。

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