単式簿記とは現金の増加もしくは減少という結果だけを会計帳簿に記録する手法をいいます。
単式簿記は株式会社では採用できない
簿記に関する解説のページでも書いた内容ですが、正規の簿記の原則は「企業会計は」と前置きしたうえで次の三要件に従った会計帳簿を作成することを要請しています。
- 網羅性
- 立証性
- 秩序性
そしてその「企業会計」には全ての営利法人が営む会計が該当します。したがってこの時点で全ての株式会社は上記三要件を満たす会計帳簿を作成する必要があります。そして次に、この三要件を満たす簿記は複式簿記しかありえません。
したがって結論として、通常の株式会社であれば単式簿記の採用は認められず、複式簿記を採用して会計帳簿を作成しなければなりません。
個人事業者であれば単式簿記で問題ない
逆に言うと、個人事業者の営む会計は企業会計ではないため企業会計原則の適用対象外です。したがって、正規の簿記の原則の適用もないため、個人事業者であれば単式簿記で問題ないです。
ただし、個人事業者であっても年商2000万円を超えるような普通法人と変わらないような規模の個人事業者もいます。そういった個人事業者の場合には単式簿記なんていう時代遅れな記帳方法を採用せず、複式簿記を採用しましょう。そもそもその規模だと通常は税理士が入っていますので会計ソフトで自計化されていて当然のごとく複式簿記により会計帳簿が作成されているはずですが。
単式簿記とはどういうものか
それでは実際に単式簿記とはどういうものなのかをご紹介します。単式簿記とはいわゆる家計簿や現金出納帳がこれに該当します。
単式簿記は網羅性に欠ける
網羅性とは、企業の経済活動のすべてが網羅的に記録されていることをいいます。それに対して単式簿記は通常、現金の出納のみを記帳していきます。したがってまず、網羅性に欠けます。
単式簿記は立証性は問題なし
立証性とは、会計記録が検証可能な証拠資料に基づいていることをいいます。それに対して単式簿記は、取引に網羅性がないだけで適当な数字を記載してさえいなければ立証性の観点は問題ないと言えます。
単式簿記は秩序性に欠ける
秩序性とは、すべての会計記録が継続的・組織的に行われていることをいいます。それに対して単式簿記は通常、現金の出納のみを断片的に記録するものであり、継続的・組織的に行われるものではありません。したがって秩序性に欠けると言えます。
不動産所得しかない個人事業者
このように、単式簿記による会計記録は網羅性や秩序性に欠けており、かなり不完全な帳簿記帳の方法であることは間違いないです。
しかし、不動産所得しかないような個人事業者の場合には単式簿記でなんら問題がないです。
決算報告が不要
まず、個人事業者であるため決算報告が不要です。したがって決算書を作成する必要がないです。税務申告のために数字さえきっちり集計できれば問題ないです。
必要経費がかなり限定される
所得税法上、個人事業者の必要経費に算入できる範囲はかなり限定されています。基本的に事業に関連するものだけです。したがって、不動産所得しかない個人事業者の場合には、所有する不動産物件を管理維持するために必要な経費と、不動産屋に支払う仲介手数料くらいしか必要経費になりません。具体的には次のものです。逆に言うとここに書いてないものは必要経費にはならないと考えた方がよいです。
- 減価償却費
- 修繕費
- 固定資産税
- 火災保険
- 借入金利息
- 仲介手数料
ネット検索すると雑費とか人件費いろいろ書いているサイトもありましたが、ちょっとう~んという感じです。
したがって、必要経費に関する取引は年間10件とか多くて20件とかその程度の場合もあります。この程度であれば手書きの帳簿やエクセルで簡単に作成した集計表のほうが自由度が高く便利です。その際、全て現金で決済を行えば単式簿記でいいと思いませんか?実際問題ないです。
売上は家賃収入のみ
不動産所得しかない個人事業者の場合、売上は家賃収入のみです。しかも、物件に増減がない限り、空き室があるか完全に埋まってるかの違いだけで売上高はだいたい同じです。そして、複式簿記により(借方)現金〇〇円(貸方)売上〇〇円と売上高を得意先別に会計ソフトに入力していくより、手書きの帳簿やエクセルで物件ごとに入金状況などを把握していくほうが自由度が高く便利です。
そして家賃のほうは普通預金で管理したとしても税務申告の際に売上は普通預金のほうから集計していって、経費について単式簿記の帳簿から集計していけばそれで問題ないです。