財務分析とは
財務分析(読み方:ざいむぶんせき)とは、会社の貸借対照表や損益計算書といった財務諸表の数値を財務分析指標にあてはめることでその会社の安全性や収益性を分析し、その会社の企業価値を評価することをいいます。
ちなみに、決算書を読むためには会計ルールが不可欠ですが、財務分析を行う場合については会計ルールはなくても可能です。これは結構すごいことだと個人的に思います。
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決算書を読むための大前提と財務分析を行うための大前提は違う
決算書にはルールがある 決算書には聞きなれない名称やたくさんの数字が並んでいます。したがって会計学を学んだことがない一般のサラリーマン、学生等には一見しただけでは理解することは非常に困難である印象があ ...
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財務分析の実施方法
財務分析は電卓や暗算でその場その場でざっくり計算して使う場合もありますが(特に税理士が顧問先に決算書を報告する場合)、Excelで計算(証券アナリスト、投資家等が実施する場合)する方法も一般的です。
財務分析のメリット
財務分析を行うメリットには様々なものがあります。ざっと挙げてみると次のとおりです。
財務分析を行うメリットその1:比較しやすくなる
算出した財務分析結果は、利益率のようなパーセンテージ、あるいは倍数、回転数などといった数値として現れます。したがって何十何億何千何百円というような普通の人には想像もつかないような財務諸表に書かれた金額の羅列にただ目を凝らすより単純に比較がしやすくなるメリットがあります。
財務分析を行うメリットその2:より深く分析することが可能になる
例えばある会社の財務諸表を分析する際、当期の売上高や当期純利益といった金額を前期、前々期の金額と比較するだけでは増えたか減ったかしかわかりません。しかし財務分析により利益率やROA(総資産利益率)などを算出して数値として比較すると単純に増えたか減ったかだけではなく、例えば利益の質ということまでより深く分析することが可能になるメリットがあります。
財務分析を行うメリット3:他社と比較しやすくなる
財務分析を行うと財務分析結果は、利益率のようなパーセンテージ、あるいは倍数、回転数などといった数値として現れるというのは前記のとおりです。これにより売上規模や資本規模が全く違う会社であっても横一列に比較することができるようになります。例えば売上高1億円の会社の当期純利益が500万円、売上高1千万円の会社の当期純利益が50万円だったとして、あなたはどちらの会社が優れていると思いますか?
人によってどんな基準を重視するかによって全く異なる結果となるためため単純比較できず、結論を出すのはとても難しいはずです。しかし財務分析を行うと売上高当期純利益、ROA、など様々な財務分析指標から多角的に比較することが可能になるため他社と比較しやすくなるメリットがあります。
外部分析と内部分析の特徴
ここまで単純に財務分析と呼んできましたが、実は財務分析には外部分析と内部分析、2つの側面があります。
- 証券アナリスト等、企業外部の人間が対象法人の企業価値を算定等するために財務分析を行う場合(外部分析)
- その会社の財務部門等が管理会計、資金管理の一環として財務分析が実施される場合(内部分析)
外部分析の場合には入手できる情報が限られているのと、証券アナリストのような専門家でない限り高度な分析はできないといった特徴があります。
それに対して内部分析の場合には、有価証券報告書やIR情報として公開されているものばかりでなく、非公開の情報も詳細に入手して利用可能であるという特徴があります。
しかも上場企業の場合には財務分析を実施するのは通常財務のマネージャーであったりと専門知識も豊富であるため、高度な分析が行われるという特徴があります。
以下、この二つの側面に分けて解説を行っていみます。
ファンダメンタル分析とテクニカル分析
なお、外部分析はファンダメンタル分析とテクニカル分析の2種類に分類されます。
- ファンダメンタル分析
- テクニカル分析
ファンダメンタル分析
ファンダメンタル分析(Fundamental Analysis)とは、財務諸表から収集したデータに財務分析指標を適用して企業価値を判断することをいいます。
通常の人が考える外部分析の財務分析がこのファンダメンタル分析に該当します。
Fundamentalには本源的なや根源的なという意味があり、その会社の本源的な価値を定量的に求めようとする手法がファンダメンタル分析です。
テクニカル分析
テクニカル分析(Technical Analysis)とは、過去の統計データやパターン、トレンドなどを利用して将来の価格を予測する手法です。
ウォールストリートの投資ファンドなどが使っている手法がテクニカル分析です。
財務諸表の入手
次に、財務分析を実際に実施するためには、まずはその会社の財務諸表を入手する必要があります。内部分析であれば自社の情報ですので容易に入手可能です。
それに対して、外部分析を行う場合には上場会社であれば有価証券報告書などが公開されていますのでそれを入手します。EDINETや日経の企業IRなどで入手できます。詳細は別ページにまとめました。
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財務分析が実施される単位
外部分析の場合には連結財務諸表単位
財務分析が実施される単位としては、外部分析の場合には上場企業の有価証券報告書を使うため、グループ企業の場合には連結財務諸表単位となります。
内部分析の場合には様々な単位で可能
それに対して、財務分析が内部的に実施される場合(内部分析)には、様々な情報が入手可能であるため、より細かい単位で財務分析の実施が可能です。
例えば国内にも海外にも多数の子会社、関係会社を有する例えばリコー株式会社のような連結グループの場合には、子会社や関連会社の個別財務諸表単位、さらにはそれらを一定のグループごとに集約した事業単位、セグメント単位でも財務分析は実施可能です。
さらに例えばセブン&アイ・ホールディングスのように国内に多数の店舗を展開している会社であれば店舗単位、キャンペーンなどのプロジェクト、予算単位等でも実施可能です。
財務分析の種類
それでは具体的な財務分析指標の話に入りたいと思います。
財務分析には収益性分析、安全性分析、資金繰り分析などがあります。
収益性分析
その会社の収益力はすべて損益計算書に記載されています。例えば売上高であったり当期純利益です。収益力を判断する上でこれらの数字以上に重要なものなどありません。
しかし、利益Profitとは、利益率Margin×回転Turnoverであることから、財務分析の収益性分析の指標は使い方によっては損益計算書の当期純利益を向上させる手段を提供します。
また、その会社に投資に見合った収益性があるかどうかを判断するためには実は損益計算書だけでは不十分で、ROAやROEなどのリターン比率の利用は不可欠です。
また、ROEなどの指標を投資家が重視して投資判断を行っていることから上場企業においてはROEを意識した資本効率を重視した経営判断が不可欠です。
このように簡単に列挙しただけでも損益計算書の数字が会社の収益力を判断する上で最重要だとしても、収益性分析の財務分析指標には大きな利用価値があることがお分かりいただけるかと思います。
安全性分析
その会社の安全性を判断する際に財務分析は非常に有効です。主要なものは次の3つです。
安全性分析の財務分析指標には主要なものだけでも他に10くらいありますが正直ほとんどのものが似たり寄ったりです。安全性を外部分析する上で重要なのは次の3点です。
- 短期的な支払能力
- 長期的な支払能力
- 自己資本の高さ
そしてそれぞれ上記の指標と対応してます。
もっと色々多方面から分析したいと考えている勉強熱心な方は安全性分析として解説しているページをひとつづつご覧ください。財務諸表を読む力がかなりつくはずです。
資金繰り分析
資金繰り分析は管理会計として、自社で自主的に行う価値がとても高いです。内部分析です。
キャッシュフロー経営として近年注目されている分野でもあります。
垂直分析と水平分析
財務諸表から収集したデータに財務分析指標を適用すると財務分析の結果が出ます。その結果をどう使って比較・評価を行うかという比較・評価の手法には垂直分析と水平分析があります。
垂直分析
垂直分析(Vertical Analysis)とは、基本となるのはある会計期間における特定の項目と別の項目の関係を分析することです。例えば売上高と営業利益との関係は営業利益率というパーセント表示で表すことができます。同時に当期純利益率などもパーセント表示で表すことができます。こうすることで金額の絶対値ではなく比率として他項目間の関係性を比較することができます。
さらにパーセント表示で表すことにより、会社規模の異なる別の会社や業界標準値等、様々な事業体との比較が可能になるというかなり強力な効果があります。
外部分析、内部分析どちらにとっても非常に有効です。
水平分析
水平分析(Horizontal analysis)とは、ある会社の財務諸表の数値が複数の会計期間にどのように変化しているかを評価することです。
水平分析はトレンド分析とも呼ばれます。キャッシュフロー計算書を使ってキャッシュフローの状況を評価する際には必須のテクニックです。