労働分配率とは
労働分配率とは付加価値額のうちどの程度を人件費として社員に分配しているかを示したものです。
付加価値額とは
ちなみに付加価値額とは、事業活動により産み出された価値をいいます。
会社が従業員を雇用して支払ったお給料も社会に価値を還元していることから事業活動により産み出された付加価値額を構成していると考えます。つまり付加価値とは利益を指すのではないです。
野菜農家を例にとると、野菜を出荷して稼いだ収入から、野菜を生産するために投入された肥料、種苗などの支出を差し引いたものが付加価値額です。インプットとアウトプットの差額とも説明されます。
付加価値額のイメージ
付加価値額のイメージとしては次のとおりです。決まった計算方法はないため積み上げ方式で計算する方法、控除方式で計算する方法などがあります。
付加価値額の計算方法
労働分配率は財務省、内閣府、中小企業庁、経済産業省などが集計して公表を行っていますが、それぞれの集計主体によって付加価値額の計算方法が若干異なります。
財務省方式
付加価値=営業利益+減価償却費+人件費
内閣府方式
付加価値=人件費+支払利息等+動産・不動産賃借料+租税公課+営業純益
中小企業庁方式
付加価値額=営業利益+人件費+支払利息等+動産・不動産賃借料+租税公課
経済産業省方式
付加価値額 = 営業利益+給与総額+減価償却費+福利厚生費+動産・不動産賃借 料 +租税公課
本来はマクロ経済学の指標
労働生産性を含む次の三つの指標は日本においてはなぜだか生産性に関する財務分析指標だとされますが、本来はマクロ経済学の分野で使われる統計指標です。GDPとかGNPといった指標を義務教育で誰しもが習ってるはずですが、労働生産性や労働分配率、労働装備率はそれら指標と併せて集計されて政府により公開されているものです。
また、そもそも政府が統計をとって公開している統計指標であるため後述するように、公表機関によって計算方法が異なります。
労働分配率は財務分析指標として意味がない
はっきり言いますが、ある会社の労働生産性や労働分配率が政府統計や業界標準値と比較して高かったり低かったりしてなんか意味あるんでしょうか?
株式会社などの営利企業の事業活動の目的は利益を稼ぐことです。付加価値額のうちどの程度人件費としているかなどという意味不明な指標に一喜一憂している会社がもしあるならかなり頭が悪いと思いますし、そんな意味不明な指標を示して御社は~などとコンサルしてるコンサルタントがもしいるならだいぶおかしいと思います。
中小企業診断士試験の試験範囲
なお、労働生産性や労働分配率は中小企業診断士の試験範囲となっているようですので実際そういったコンサルはいるのかもしれません。
労働分配率が低すぎる場合に示唆されること
そこで少し検索してみたところ、労働分配率が低すぎる会社というのは人件費の水準が低すぎる、利益を十分稼いでいるにもかかわらず従業員に対して給料として還元していない、よって従業員のモチベーションが下がっている可能性が示唆されるなどと解説している中小企業診断士さんのブログを読みました。
そういう可能性は無きにしも非ずですが、かなり的外れと言わざるをえません。
人件費とは役員報酬+従業員給料
理由の一つめとして、人件費とはざっくりと言って役員報酬+従業員給料です。つまり、労働分配率の計算における人件費には役員報酬が含まれるため人件費が少ないからといって必ずしも従業員に対する還元率の低さを意味しない。
付加価値額には賃借料や減価償却費を含める
理由の二つ目として、労働分配率の計算における付加価値額には賃借料や減価償却費が含まれることです。実際には従業員給料の水準がかなり低く抑えられていたとしても、賃借料や減価償却費が多いと労働分配率は高く計算されます。したがって労働分配率が高い会社であっても実際には従業員に対する給料としての還元度がかなり低いということはありえます。
給料総額とは一人当たり給料×従業員数
ケチをつけだすときりがないのですが、理由の三つ目として、従業員に対する給料総額とは、一人当たりの給料×従業員数です。したがって一人当たりの給料水準が大変低かったとしても、従業員を沢山雇用していれば給料総額が多くなり、よって人件費も多くなり、連動して付加価値額も大きく計算されます。
これ以上言わなくてもよいと思いますが、このように労働分配率とはあくまでマクロ経済学の分野における統計指標であり、会社経営にあたって一喜一憂すべきものではありません。
指標をアレンジして管理会計として利用するのはアリ
なお、労働分配率の指標をアレンジして、例えば付加価値額を従業員給料に限定するなどすれば、上記のような不都合は生じないため、管理会計として社内内部の経営管理で利用する価値はある指標であると言えます。